ストレッチを行っていく上で、伸張反射を理解する必要があります。

骨格筋やその腱には、伸び縮みんだりした時の状態を察知する2つの運動感覚器官(伸展受容器)があります。

●筋紡錘
主に筋腹にあり筋の長さと速度を感知します。
●ゴルジ腱器官
腱と筋の移行部において筋線維に対して直列に結合しています。筋の張力を感知します。

これら伸展受容器は、骨格筋や腱の「長さ変化」や「張力変化」を感知し何らかの反応を示す。
そして、筋紡錘やゴルジ腱器官と密接な関わりがあり、筋をリラクゼーションする上でも理解しておく必要がある部分が「伸張反射」「Ib抑制(自己抑制)」「Ia抑制(相反神経抑制)」となります。

※例えばスタティックストレッチングでは、「いかに伸張反射を誘発せずに、Ib抑制によって筋を弛緩させる事ができるか」が重要となり「単なるIb抑制だけによる筋弛緩ではなく、拮抗筋の収縮によるIa抑制(相反神経抑制)」も筋リラクゼーションに活用できるポイントとなります。

ストレッチング時に避けるべき伸張反射

筋紡錘は筋の伸張を感知して、反射的に伸張された筋を収縮させる作用があり、これを「伸張反射」と呼び、伸張反射は以下の機序で起こる。

・伸張反射の発生機序

1)筋の伸張を筋紡錘が感知する
2)筋紡錘に接続されているIa線維が興奮して、刺激を脊髄へ伝える
3)脊髄内へ入ったIa線維は、同じ筋(伸張された筋線維)を支配する多数のα運動ニューロンとシナプスする。4)α運動ニューロンに伝わった興奮は、同じ筋(伸張された筋線維)の収縮を起こす。

この伸張反射を利用した検査が、膝の膝蓋腱反射が代表とされる「深部腱反射テスト」です。
腱を打鍵器で叩くと(腱を介して)筋が瞬間的に伸張され、伸張反射が働き、筋を収縮させる。

この伸張反射は、ストレッチングをする際にも考慮する必要があり、急激に筋を伸長すると伸張反射が起こってしまい、十分なストレッチング効果が得られなくなります。

伸張反射と同時に起こるIa抑制

伸張反射は「筋の伸張を筋紡錘が感知し→筋紡錘に接続されているIa線維が興奮→刺激を脊髄へ伝える 」の順序を辿ります。
脊髄内に入ったIa線維は伸張反射として動筋(伸張された筋線維)へ興奮性の刺激を送るだけでなく、拮抗筋へ抑制性の刺激も送っており、この刺激によって起こる「拮抗筋の弛緩」を「Ia抑制(相反神経抑制)」と呼びます。

・Ia抑制の作用機序

1)筋の伸張を筋紡錘が感知する
2)筋紡錘に接続されているIa線維が興奮して刺激を脊髄へ伝える
3)脊髄内へ入ったIa線維は、介在ニューロン(Ia抑制ニューロン)を介して拮抗筋を支配するα運動ニューロンとシナプスする。
4)抑制性の介在ニューロンを介した刺激は、α運動ニューロンから拮抗筋に伝わり、拮抗筋の緊張を抑制する。

膝蓋腱反射では「打鍵器で叩いた刺激が、膝伸展運動の主動作筋である大腿四頭筋を(伸張反射によって)収縮させる一方で、拮抗筋であるハムストリングスを(Ia抑制によって)抑制させている」ので、Ia抑制の作用で伸張反射の働きは増強され、運動時の四肢の屈曲や伸展が円滑に行える事となります。

Ia抑制はダイナミックストレッチングにも利用される

リハビリで活用する為に押さえておきたいIa抑制のポイントは、伸張反射とセットで語られるIa抑制ではなく「主動筋の収縮(過緊張)は拮抗筋の抑制に繋がる」という作用です。

※主動筋を収縮させた場合に、主動筋を支配している神経線維は促通インパルスを送る一方で、拮抗筋には抑制インパルスを送る。
※これにより「主動筋が収縮すればするほどに、拮抗筋が弛緩する」現象が起こり、これは「相反神経支配」だけど、これもIa抑制が関与している。

臨床例では「ハムストリングスの筋緊張が高い⇒Ia抑制によって大腿四頭筋の筋出力が落ちてしまっているケース」においては以下の様な考えに活用できる。

※大腿四頭筋の筋出力の向上をしたい。
1)大腿四頭筋の筋トレだけではなく、ハムストリングスの筋緊張抑制も考える必要があります。
(いくら筋トレしても、ハムストリングスからのIa抑制によって大腿四頭筋の筋出力が再び低下してしまう)
2)ハムストリングスの反射的短縮を改善しようと、SLRによるスタティックストレッチングを施行したとして反射的短縮が改善し、SLRの可動域も改善したとします。

本来ならここで筋出力の向上などの目的は完了しますが、そこで終わらずに「得られた可動域内でのSLRの自動運動(大腿四頭筋の収縮)させてIa抑制によるリラクゼーションも施しておく事」は大切です。

「新しく得られた可動域内での運動を施す事」により以下の効果が期待できます。

1)新しく得られた可動域内での大腿四頭筋の収縮が学習できる。
2)SLR自動運動による機械的なハムストリングスの伸張効果に加えて、大腿四頭筋収縮によるIa抑制により、更にハムストリングスの緊張を抑制できる可能性がある。
3)大腿四頭筋が強化されることで、マッスルインバランスが改善される。

※日常においてマッスルインバランス(大腿四頭筋の弱化・ハムストリングスの過緊張)が起こっていたものが、大腿四頭筋の強化によってマッスルインバランスが改善され、ハムストリングスの過緊張が(大腿四頭筋からのIa抑制によって)正常化する。

伸張反射と同時に起こるIb抑制(自己抑制)

Ib抑制とは「骨格筋の腱へ伸張刺激が加わる事で、その筋の緊張が抑制される」現象を指し、「自己抑制」とも呼ばれています。

腱に存在する伸展受容器のゴルジ腱器官は、例えば以下の様な際に伸張を感知する。
・筋がストレッチングされる
筋と一緒に腱も伸張される
・筋が収縮する
筋が縮むと、それだけ腱は伸張刺激を受ける事になる。

・Ib抑制の作用機序

1)ゴルジ腱器官がストレッチングや筋収縮した際に張力を感知する。
2)腱紡錘に接続されているIb線維が興奮して刺激を脊髄へ伝える。
3)脊髄内へ入ったIb線維は、同じ筋(伸張された筋線維)を支配する多数のα運動ニューロンとシナプスする。
4)脊髄内へ入ったIa線維は、介在ニューロンを介して同筋を支配するα運動ニューロンとシナプスする。
5)抑制性の介在ニューロンを介した刺激は、α運動ニューロンから同筋に伝わり、自己抑制(同筋の抑制)が起こる。

Ib抑制はストレッチングの基本

スタティックストレッチングでは、「いかに伸張反射を誘発せずに、Ib抑制によって筋を弛緩させる事ができるか」が重要となます。
つまり、Ib抑制はスタティックストレッチングによって反射的短縮が改善される機序そのものと言え、等尺性収縮後弛緩テクニックによる反射的短縮改善の機序でもある。

・等尺性収縮後弛緩テクニック
ハムストリングスに等尺性収縮を行うと、ハムストリングスが縮む分だけ腱には伸張刺激が加わる。するとIb抑制(自己抑制)が生じて、ハムストリングスの緊張が緩むなど。

また、以前は「Ib抑制を起こすには最大収縮が重要である」と言われていましたが、最近では軽微な収縮でもIb抑制は起こせる事が分かってきているので、ストレッチングの様な「筋の伸張によって疼痛が誘発しやすく、逆に防御性収縮を助長してしまうケース」においても「軽微な筋収縮」を活用する事で安全にリラクゼーションが得られたりもします。

この様に、Ib抑制やIa抑制などを知っておく事で、用途に合わせて様々な手法を使い分けができるようになってきます。